TOP2005年記録

奥利根から越後へ、夢のような5日間

奥利根縦走/鳩待峠〜剱ヶ倉山〜越後沢尾根
〜越後駒ヶ岳 (雪稜)

佐貫

【日時】2005年4月29日(金)〜5月3日(火)
【メンバー】佐貫(L)、関口、棚橋、大野


 1月頃から大雪のニュースを聞くたび、一人ソワソワしていた。例年であればGWにはすでに藪が出ているであろう越後沢尾根。また、昔の岳人で歩き尾根を滑る小泉共司氏の写真を見て以来、歩き尾根をトレースすることは憧れでもあった。大いなる希望的観測の分を差し引いても、今年の連休は奥利根の山々が微笑んでくれそうな気がした。4月3週に越後駒に偵察に行ったところ、当初考えていた下山ルート(荒沢岳の坪倉沢左岸尾根)は既に雪が落ち始めていたので、兎岳から先は越後駒への稜線歩きとする。結果的にはクラシックな利根川横断ルートをトレースする計画になってしまったものの、地形図6枚分(結果的には7枚分)の縦走に大いに緊張しながら当日を迎えた。

4/29(金)晴れ後曇り、その後強風と小雨
 戸倉の駐車場に車を置き、鳩待峠へタクシーで向かう。軽装のボーダー、スキーヤーの数に眩暈がする。大荷物でツボ足の私達は浮いていた。みんな至仏へ行くようだ。山ノ鼻までは「人里」だった。猫又川の流れは出ているが随所で渡れる。ワル沢の左岸側の尾根に取り付き、1661付近を通過する頃から空は暗くなって気温も下がり出し、ついにはポツポツと雨粒が落ちてきた。人間の足跡のすぐ横には真新しい熊の足跡(結構もぐっている)。大白沢山南部の広い尾根上を西に向かってトラバース気味に登り、ススケ峰からの稜線とのジャンクションへ。この辺は昨年、一昨年と夏に遡下降したところで眺望を楽しみにしていたのに、ガスに遮られてしまい残念だ。白沢山を越えて1935あたりまで、と思っていたが、稜線は風が強まってきていたので白沢山の南東面に少し下ったあたりをC1とする。
【ザックを下ろして】
 行程は厳しくなかったが、雨が余計だった。明日以降の好天を期待しよう。(棚橋)/体調はすっきりしないが、奥利根には何としても来たかった。今日の後半は寒かったが、明日は春の稜線行きを望む。(大野)/前回、尾瀬から平ヶ岳を目指したのは20年余前。当時を懐かしく思い出しながらの行動であった。それにしても前半はTシャツになる程の暖かさだったのに、前線の過ぎた今はとても寒く、風も強い。(関口)/ついに山行開始。いつもやる気は水溶性の私でも、今回ばかりは簡単には日和らないぜ!去年の夏に訪れた北田代方面が見えなかったのが残念。(佐貫)

4/30(土)快晴
 雨は上がり、どっしりした赤倉岳や平ヶ岳が青い空に映える朝。締まった雪の上を歩き、1時間少々で平ヶ岳の山頂へ到着する。東側には垂涎ものの斜面が広がっている。山頂から北へ延びる稜線も興味深い。剱ヶ倉山へは一旦下り、やや急な斜面を登り返して一投足。剱ヶ倉のピークからはこれから下る歩き尾根の全容は見えないが、いよいよこれから利根川横断だと思うと期待が高まり緊張する。左手の剱ヶ倉沢の切れ込みは深い。前方には越後沢尾根、更に心拍数が上がるのが分かる。
 数十mも南西方面に下ると、いよいよ歩き尾根が視界に入ってきた。思わず歓声を上げたくなるような広く緩やかな斜面が続き、何となく井戸尾根に似ている。古いスキーのシュプールらしきものが残っている。先ほどまで強かった風も止み、まさに春山という雰囲気、スキーがあれば・・・という感じ。c.1403より下は藪っぽいかもしれないと予想していたがさにあらず。1240mで大休止し、最後は懸垂になりそうなのでハーネスをつける。ここからはいよいよ尾根上から雪が所々消えているが、尾根末端まで下り、最後はヒトマタギ目指して懸垂かと考えていた。しかし関口さんの提案で越後沢尾根上のc.1063の対岸のあたりに降りる雪のついた斜面を下ってみることにする。先行した関口さんの見事なルートファインディングで小さな沢型を渡り、雪壁をバックステップで下降すると懸垂なしで本流の上に出ることに成功した。流れは何メートル下になるのだろう?デブリに埋め尽くされ、上流からも水の音は全く聞こえてこない。頭上からのブロック崩壊に注意しながらも、利根川に立った!という感動でしばしその場に立ち尽くす。
 本当は越後沢出合に泊まり、利根の水を飲むのが夢だったけれど、時間も早いので越後沢尾根に末端付近から取り付くことにする。この頃には既に気温がかなり上昇しており、暑さとの戦いに突入した。標高は900m台から始まるので、当然細い藪尾根に雪がついていよう筈もない。ザックにつけたストックが枝にひっかかり発狂寸前だが、足元はけもの道のような踏み跡があるので想像していたような激藪には程遠い。1063を少し過ぎると、尾根の左側にはどうしてここにこんな場所が、と思うような穏やかな段丘があり、越後沢中俣の大滝の絶好の展望台となっているではないか。時間はまだ12時半、少なくとも1250mくらいまでは行くつもりもあったのでものすごく迷ったが、こんな素晴らしい場所にこんな好天の日に泊まれることが2度あるだろうか?という心の中の悪魔の囁きに負け、行動終了を宣言してしまった。大野さんからは密かに冷やしていたビールが回され、干し物をしたり滝を眺めたりと至福の午後を過ごす。
【ザックを下ろして】
 利根川を無事渡れて良かった。本流の、剱ヶ倉沢出合の上下で様相が違うのには驚いた。(棚橋)/祝利根川横断。今日は良い天気でまさしく5月の残雪期に昼からのんびり。幸せなる哉。(大野)/心配した利根川横断は、ロープを出すことなく無事通過。幕場には早々と到着、のんびりと午後を過ごす。こんな山行がいいねー。(関口)/歩き尾根、いつか滑ってみたい。今日の幸福感を表す語彙がないのが何とも悔しい。(佐貫)

5/1(日)快晴、後曇りから夕方以降雨
 気温が上がる前にと、4時半過ぎには行動開始。1379mは猫グラ(山カンムリに品)というらしい。1355までの間ではワンポイントの懸垂を一度、そのすぐ後のナイフエッジで1Pザイルを出す。それを過ぎると1570m牧ヶ倉山までは広い雪稜となる。越後沢中俣や右俣の大滝がだいぶ下の方に見えるようになってきた。いよいよ核心部に突入となる。直線距離にして1km強、どのくらい手こずらされるだろうか。頂稜部は時折細い岩稜状になったり細く雪が残っていたりと目まぐるしく変化するが、おしなべて右手の裏越後沢側の斜面の方が雪が落ちており、左手の越後沢側に張り出した雪庇が所々崩れたりしている感じである。
 越後沢側に崖マーク、裏越後沢にも扇状の崖マークが出ているところでは、丁度稜線がピナクル状の岩峰になっていてまるで猫の耳のようだ。リッジの幅は50cm位か、ザイルを引く棚橋さんは考えた末にトラバースルートを採ったが耳の端を回りこむところの数歩が結構微妙である。直登した方が良かったかも、とのこと。裏越後沢側の稜線下約30mのところにかろうじて引っかかっている雪が気温の上昇と共に少しずつ崩壊して落ちていくのが恐ろしい。このピナクルに続く、またしても急なリッジにも危なっかしい雪塊が付いていて、その上を歩いたり露出した藪とのコンタクトラインを登ったりして通過する。ここでザイル2P使用。そして振り返ると、30分ばかり前に上を通ったばかりの雪稜の端が越後沢側に崩壊した跡が真新しい白い筋となっていた…恐怖。牧ヶ倉山で少々のんびりしすぎたか。何とか核心部を抜けたかと思われるが、越後沢山までは見た目よりも長い。それでももう少しで終了点だという感激を噛みしめながら、越後沢から吹き上げてくる強風に背中を押されるように越後沢山に出た。12時10分。
 山頂は嘘のように風がなく、利根源流に落ちる尾根やこれからたどる国境稜線を眺めながら大休止。1時間近くも過ごした後、丹後の小屋目指して再び歩き出した。
【ザックを下ろして】
 コンディションとメンバーに恵まれ、越後沢尾根をトレースすることが出来、感謝です。(棚橋)/奥利根には神様が住んでいます。利根川を囲む山々と大滝のパノラマを前に、幸せでした。(大野)/越後沢尾根は手ごたえ十分で、充実していた。でも越後沢山から丹後山までは、気が抜けてしまったのかバテてしまった。トホホ・・・。(関口)/大滝を眼下に痩せた尾根をゆく。まさに絶景。「積雪期の利根を代表する名ルート」を実感。いつかこの手足であの大滝へ!!(佐貫)

5/2(月)小雨、ガス後晴れ
 昨夜は強風に加え雨が小屋の屋根を叩いた。毛猛の栗原Pはどうしているだろうか。今日は出来れば越後駒を越えたいと思ってはいたが、日程には余裕があるため天候の回復を待ち中ノ岳まで行くことにする。兎岳あたりまではガスに覆われていたが、次第にすっきりとした昨日までの青空が戻ってきた。荒沢岳への稜線も十分、雪の上を進めそうで、ちょっと残念だったかなと思う。小兎の先、中ノ岳への最低鞍部付近に2人の登山者が休んでいた。至仏まで行くそうだ。
 1936から池ノ段の間にはちょっとした雪庇がこちら側に張り出しており、先ほどの2人のトレースはこれを左側に巻いていたが、私達は登りなので張り出しの小さいところを目指して正面から登る。これを過ぎると夏道の分岐地点となり、すぐに中ノ岳山頂の祠が見えた。避難小屋は埋まっているように見えたが、近づいてみると2階の窓から入ることが出来た。天気はすっかり回復し、銅倉尾根や三ッ石尾根が近くにのぞめる。こうやって、行ったところを眺めて次のルートを考えるのが好きでたまらないのだが、もしかして単に臆病だから知らないところに行けないだけ?明日の好天も約束されたようなので、荷物を軽くして一気に下山すべく手持ちの酒やつまみを大放出し、夜は早めにオヤスミナサイ。
【ザックを下ろして】
 昨夕からの雨も上がり、そこそこの天候のもと、中ノ岳へ向かった。兎岳の山頂を初めて踏み、荒沢岳へつないでみたいと思った。(棚橋)/今日はのんびりしていた。5年前の3月を思い出しながらの歩きは感慨深かった。(大野)/雨は快適な避難小屋でやり過ごし、雲が切れてからの行動開始。今日も展望を楽しみながらのんびりと、でも明日はまた長時間行動か。(関口)/今日は3日ぶりに人に会った。中ノ岳は大水上山側から見た方が三国川方面から見るよりカッコイイ。東面の滝沢左岸尾根はなかなか見事で、興味をそそられる。どうやって取り付くかが問題だが…。(佐貫)

5/3(火)快晴
 2時間に1本しかない上越線のダイヤのため、今日は13時半には下山したいところだ。締まった雪をアイゼンで踏みしめ、中ノ岳からの下りが始まる。真沢、芝沢の源頭部が大迫力だ。地形図で見ると細かい上り下りがあるようだが、実際にはさほどでもない。大野さんは本調子ではないらしいが、ほとんど休憩もとらずに進んで行く。檜廊下は木の根っこがゴツゴツと張り出し歩きにくい。振り返れば祓川、八海山方面には東不動沢や西不動沢、正面には北沢といった険しい谷がスラブの間に切れ込んでいる。天狗平から少し登り返したところで休憩。極楽尾根への分岐ももうすぐだ。滝ハナ沢の右岸尾根上部の細い稜線は側稜の雪がほとんど落ちてしまっている。駒ノ小屋からの登路を合わせ、だらだらと歩いていくと越後駒山頂の鐘と銅像があった。3週間ぶりの駒のピーク、今回は感激もひとしおである。改めて全員で握手。
 百草ノ池で、タクシーを予約するために電話をかけると、やはり駒ノ湯まではまだ除雪が入っていないという。プラス何kmになるのか?ともかく時間は何とかなりそうななので、気を取り直して小倉尾根を下り始めた。豊富な残雪に、芽吹き始めたばかりの新緑が眩しい。連休後半の初日とあって、重荷を背負ったパーティーが2、3登ってくるのとすれ違う。金山沢奥壁と思しき、大迫力の岩壁が目を引く。板が右端一枚だけ残された吊橋を渡り林道に出ても、一向に雪の量は減らない。駒ノ湯から20分ほど歩いてやっと除雪地点となった。ここからは一度は除雪が完了しているようなのだが、側面からの雪崩が何箇所も道を寸断しており、結局トータルで1時間弱歩いてやっと大湯に到着した。鳩待峠から直線距離にして45km強の大縦走が終わった。
【ザックを下ろして】
 大好きな駒ヶ岳に今シーズン3度目の登頂。魅力的な沢を思う存分眺められた。(棚橋)/疲れた体にムチ打って下山。体が思うように動かないのが情けない。天気は抜けるような快晴。良い山行だったと心から思うフィナーレ。(大野)/駒ヶ岳からの下り、雪の多さにびっくり。例年の3月下旬位の雪量だろうか。駒ノ湯までの尾根筋も雪を拾いながら楽しく下る。ブナの新緑が美しかった。(関口)/山を下りるのが勿体無いような快晴の1日。また来年もこの山域で冬山をやっていられますように。奥利根そして越後バンザイ!!(佐貫)

 数年来の憧れである利根川横断と越後沢尾根のトレースが叶った。
 寡雪が当り前となった近年では、GWにこの山域で快適に雪を拾いながらの縦走を行うのはもはや難しいであろうと半分以上諦めていただけに、条件に恵まれ信頼する仲間と奥利根に飛び込んでいくことの出来た僥倖をかみしめている。同時に、厳冬期に越後沢尾根を辿った先人(浦和浪漫、わらじの仲間の各P)の偉業に改めて敬意を抱かずにはいられない。まだまだリストに行きたい場所がぎっしりのこの山域、どこまで行けるか分からないけど気が済むまで通わせて下さい、奥利根の神様。

【行程】
4/29 鳩待峠(7:50)-山ノ鼻(8:35/47)-ワル沢出合(10:20)
   -白沢山(14:23)
4/30 出発(5:05)-平ヶ岳(6:20/35)- 剱ヶ倉山(7:40)
   -利根川本流(10:35/45)-c.1063先の幕場(12:40)
5/1 出発(4:35)-(懸垂1回、ザイル2P)-牧ヶ倉山(8:20/50)
   -(ザイル4P)-越後沢山(12:10/13:00)
   -丹後山避難小屋(14:30)
5/2 出発(10:50)-兎岳(12:05/20)-中ノ岳(14:50)
   -避難小屋(14:55)
5/3 出発(4:20)-越後駒ヶ岳(7:25/30)-小倉山(8:39)-駒ノ湯(11:20)
   -大湯(12:15)

【地図】至仏山、尾瀬ヶ原、平ヶ岳、奥利根湖、兎岳、八海山
   、(大湯)