TOP2005年記録

悪天の間隙を縫って見事完遂!

虎毛山塊/皆瀬川春川本谷〜虎毛沢下降 
(沢登り)

浅井

【日時】2005年8月13日〜16日
【メンバー】田邉(一)(L)、木下、浅井

 当初は北アの北又谷に行く計画だったが、天気予報が最悪に傾いてきたので、出発日の前々日から3人でサブプランを真剣に検討し始めた。飯豊や朝日の沢も候補にあがったが、新潟方面も豪雨が続きそうなので、思い切ってもっと北の方に転進することにした。そこで私が虎毛の春川なんかいかかですかと提案したところ、木下さん・田邉さんが乗ってくれたので、前日に春川転進に決定した。私は6年前の秋に虎毛沢に行って以来、いつか春川本谷にも行ってみたいと思っていたので、これは願ってもないチャンスだった。木下さんと田邉さんは虎毛は全く初めてとのこと。
 前日に木下さんが、ネットでいろいろ調べてくれ、ダイレクトクーロワールから虎毛の山頂につめるのが最短かつ楽そうなので、春川本谷〜ダイレクトクーロワール〜虎毛沢下降というコースに決まった。ダイレクトクーロワールは「関東周辺の沢」で見て以来、沢にしてはいささか奇妙な名前とともに常に頭の片隅にあったルートなので、これも私にとっては絶好の機会到来だ。
 
8月13日(土) 曇り夜一時雨
 秋田方面も天気予報はすっきりしなかったが、予定通り金曜夜に東京を出発(この金曜夜の出発は結果的には大正解であった)。出発してすぐ今年のお盆の不安定な天気を象徴するような豪雨に襲われ、東北道に入ってからも仙台を越えるまで、断続的に雨に降られた。おまけにお盆の帰省ラッシュにぶつかり、思うように進まない。途中のSAで仮眠して、朝ゆっくり出発。今日はとにかく現地まで行ってみて、沢に入れるようだったら、行ける所まで進めばいいという考えであった。
 高速を下り、現地に近づくと、雨は降っていない。宮城と秋田の県境の花山峠を越えてすぐの田代沢林道を下りる。このアプローチは木下さんがネットで見つけてくれたもので、林道終点から約10分で皆瀬川の本流に下りられるという。これだと通常の大湯から入るより、沢沿いの山道歩きが約半分に短縮されるので、メリットは大きい。この林道は地形図やエアリアマップの記載よりも少し先まで延びているようだ。
 林道終点に着くと、早くもアブが車の周りに集まってきた。天気は何とか持ちそうなので、11:50、出発。踏み跡を下ると小さな沢(田代沢の少し上流の沢)にぶつかったので、その沢を下降して、12:00、皆瀬川の本流に出た。本流はかすかに濁りがある程度で、それほど増水はしていないようだ。そのまましばらく沢沿いに進み、途中から左岸の山道に上がり、13:00、虎毛沢出合に着く。ここからアブが一段とうるさくなってきた。
 さて、この先の春川本谷は私にとっては初めてだが、しばらくは単調な川原歩きが続いた。水量は意外と少なく、奥秩父の沢程度のスケールなので、ちょっと拍子抜けする(水量は虎毛沢の方が多いようだ)。約2時間弱の川原歩きの後、やっと釜を持ったきれいなナメ滝が現れた。木下さんと田邉さんはここで竿を出す。このナメ滝には残置ロープと鉄杭が打たれており、それをつかんで越えると、今日の幕場予定地の三滝はもうすぐであった。15:40、三滝着。ここはその名の通り、3つの沢が滝となって出合っているなかなか面白い所だ(ただし地形図の東ノ又沢の位置が実際とは少しずれている)。この三滝手前の左岸を今夜の幕場とした。
 焚火の途中で夕立に遭い、あわててタープを張る一幕もあったが、雨はすぐ止み、夜は星空も広がった。食事の前に木下さんと田邉さんがまた竿を出し、それぞれ1匹ずつ釣ってくれたので、さしみにしたり、塩焼きにしたりで、贅沢な沢の夜を満喫した。
 
8月14日(日) 曇り夜半から雨
 6:40、出発。夜半に少し雨に降られたが、空は薄曇りで今日も天気の大きな崩れはなさそうだ。三滝は真中の流れが本流。10mの滝になっているが、先頭の木下さんがフリーで軽々と登っていった。上段の一歩のスタンスが遠かったので、続く田邉さんと私はお助けのお世話になる。その上は釜がいくつか現れ、やがてナメ状のゆるやかな流れが続いた。やがてナメが顕著になると、ナメ床に独特の亀甲模様が記されているのが分かった。すかさず3人でめいめいカメラのレンズを向ける。この模様は少し上流に行くと線の太さや色合いが微妙に変わってきて、自然の造形の妙に感心されられた。一枚岩のはずなのにどうしてこんな模様ができたのか、本当に不思議である。この模様は虎毛沢にはなかったので、ここだけに見られるものなのだろうか?
 7:40、万滝沢出合に着く。周知のごとく万滝沢は百名谷に入っているが、96年の鳴子地震による崩壊で遡行対象からは外されてしまっている。万滝沢出合を過ぎるとまず釜を持った小滝が現れ、次は釜を持った10m程の樋状の滝。ここは少し釜を泳いで取り付き、シャワーで快適に登れた(「関東周辺の沢」の写真の滝がこれだろう)。さらにナメの小滝と続き、俄然面白くなってきた!
 次は釜を持った2m程の幅広のスラブ滝。ここは水流右側のホールド・スタンスに乏しい側壁を木下さんが空身で見事突破した。後続はゴボウで登る。その先も舗装道路のようなつるつるのナメが続く。4つの丸い釜が連続する「四ッ釜」は写真で見たのよりもスケールが小さく、あっけなく通過した。8:30、西ノ又沢出合着。その先は傾斜がきつくつるつるで登れない8mの滝。左から巻くが足場が悪かった。次はやはりつるつるで登れない15mのスラブ滝。ここはスパイクを履いて右から巻いた。
 9:20、やや分かりづらい三俣。真中が本流である。ここからは水量もぐっと減るが、5m前後の滝が連続して出てきた。その中の6m程のつるつる滝は登れず、またスパイクを履いて右から巻いた。次は8mのスラブ滝。傾斜は比較的ゆるいが、ホールド・スタンスに乏しく、登れそうにない。しかし木下さんが空身で挑戦。絶妙なフリクションクライミングで見事突破してくれた。後続はゴボウで登った。なおもスラブ状のナメを登っていくと、10:50、ダイレクトクーロワールの出合に着いた。ここからは標高差約500mを一気に登っていくのである。出合はゴーロでいかにもしょぼい感じだ。それに対して本流の方は、奥に核心部の大滝を控えており、いかにも険悪な感じで迫っている。
 さて、ダイレクトクーロワールに入るとまず、40mのすっきりしたスラブ滝に出合う。下部はフリーで登れそうだが、高さがあるので、念のためロープを引いて木下さんがリード。40mロープでは落口まで届かず、途中の潅木でピッチを切った。ラストの田邉さんが2ピッチ目の5mをリードし、終了。落口付近は傾斜が立っていたので、ここはロープを出して正解であった。結局ダイレクトクーロワールですっきりした滝はここのみで、後はゴーロと大岩が累積したような小滝が連続した。ただし傾斜が急なので、何箇所かいやらしい箇所もあった。田邉さんが空身で突破した所などは岩がかぶり気味で、やや苦労した。しかし全体的には大高巻きすることもなく、概ね水線通しに遡行でき、順調に高度を上げていった。出合から少なかった水は意外と上部まで涸れることなく流れていたが、その水もいよいよ涸れると、最後のつめに入る。急なガレを登った後、少しヤブを漕ぐと、急に傾斜がなくなり、15:00、広大な湿原に飛び出した。
 湿原の木道で大休止。結局約4時間でダイレクトクーロワールを登り終えたことになる。沢の最後が湿原というのはやはり気持ちがよい。曇りがちの天気で展望は楽しめなかったが、無事山頂にたどり着き、心は開放感でいっぱいだ。
 15:30、山頂の避難小屋に到着。私は6年前の秋にこの小屋に泊ったので、とても懐かしかった。下には先客の二人組がいたので、我々は2階に陣取る。天気予報を聞くと、今日の夜から明日にかけて本格的な雨になるらしい。果たして夕方から雨が降ってきて、しだいに本降りになってきた。

8月15日(月) 雨夕方から晴れ(一日小屋で停滞)
 昨夜は一晩中雨と風が吹き荒れ、朝になっても止まない。午後にならないと天気は回復しないとの予報なので、今日はここで停滞することに決定。退屈しのぎに小屋に備え付けのノートをめくってみると、02年の子安Pや古野Pのメンバーの書き込みを見つけた。そしてさらに我々がダイレクトクーロワールを登っていた昨日、きりぎりすの木下氏が万滝沢を登っていたことが彼の書き込みで分かった。彼らは我々よりも一足先に小屋に到着して、その日のうちに下山したようだ。万滝はやはり崩壊が激しく最悪だったと記されていた(それにしてもよくやるなぁと感心する)。
 午後になってもなかなか雨は止まず、突発的に強い雨が降ってきた。そんな中、沢の格好をした一団が小屋に入ってきた。聞くと、何とこの悪天の中、ダイレクトクーロワールを登ってきたという!我々が登った時はチョロチョロだった流れは増水で白濁した一本の流れになっており、ほとんど巻きながら登ってきたとのこと。地元の山岳会(沢の会ではない)の人たちだが、これもよくやるなぁと感心させられた。
 夕方になってやっと天気が回復し、晴れ間も見えてきた。目の前の栗駒山がくっきり見えてきた。予報を聞くと、明日は晴れて暑くなるようだ。

8月16日(火) 曇りのち晴れ
 6:10、出発。やや雲が多く、まだすっきりとは晴れていない。登山道を20分程下った所で沢の切れ込みが見えてきたので、ヤブを漕ぎながら虎毛沢目指して下降開始。やがて水が出てきて、順調に下っていく。8:30、735mの二俣着。ここまでは滝がいくつか出てきたので、15m程の懸垂を3回行なった。後はお馴染みのナメ床を快適に下っていく。6年前虎毛沢を遡行した時の記憶が蘇ってくるが、渇水期の秋と大雨直後の今日とでは水量がまるで違うので、あまり記憶がオーバーラップしない。下降ということもあるが、まるで別の沢に来たみたいだ。
 途中田邉さんと木下さんが竿を出したので、のんびり休む。やっと夏らしい強い陽射しが戻ってきたが、またアブがうるさくなってきた。12:30、赤湯又沢出合着。悪場が全くないので予定よりもペースが速い。赤湯又沢出合の先で泳いだ箇所があったが、後は川原歩きが続く。このペースだと夕方までには車に戻れることが確実なので、今日の沢での泊りはなしとなった。そこで広い川原で大休止し、今日の夕食用のうどんと先程釣ったヤマメをさしみと味噌汁にして食べた(ついでにビールも少し)。
 なおも下って、15:35、春川出合着。後は往路を辿って、16:30、無事林道の車に戻った。
 今日中に東京には帰れないので、まず大湯温泉で汗を流し、小安峡まで車で移動して、足湯がある広い駐車場で泊り、翌朝ゆっくり帰京した。なお、この日、宮城県沖で強い地震があったことを知ったが、沢にいた我々は揺れは全く感じなかった。
 振り返れば、行動中は雨や地震の影響を受けることもなく、本当にラッキーな山行だったと思う。終始山行を引っ張ってくれた田邉さんと木下さん、本当にどうもありがとうございました。

【行程】
8/13 田代沢林道終点(11:50)〜皆瀬川本流(12:00)〜虎毛沢出合(13:00)〜三滝(15:40)
8/15 雨のため停滞
8/16 出発(6:10)〜虎毛沢二俣(8:30)〜赤湯又沢出合(12:30)〜春川出合(15:35)〜田代沢林道終点(16:30)
【地図】桂沢・軍沢・鬼首峠・秋ノ宮