TOP2005年記録

県境を越えての静かな沢旅

会越国境/室谷川本流〜叶津川五枚沢下降
〜只見 (沢登り)

浅井

【日 時】 2005年9月17日〜19日
【メンバー】佐貫(L)、田村、浅井

 室谷川は佐貫さんが今シーズン拘っている沢の一つで、7月上旬には日帰りで途中まで往復している(月報8月号参照)。今回はその本流を最後までつめて中ノ又山に立ち、只見側の沢を下降するという計画である。室谷川本流については『日本の渓谷 97』に浦和浪漫の記録が載っており、それを見るととても面白そうな沢なので、期待が高まる。メンバーは出発直前まで仕事の都合で参加が危ぶまれた田村さんを加えて三人となった。また今回は新潟側の入山口と只見側の下山口がかけ離れているので、車は使わず電車とタクシー利用で行くことにした。

9月17日(土) 晴れ
 前夜、「ムーンライトえちご」で出発。新津駅で磐越西線に乗り換えて、7:08、津川駅着。途中の車窓から見た阿賀野川の雄大さに感動する。津川駅は初めてだが、とても風情のある駅だ。特に駅舎に貼ってあった「狐の嫁入り」の写真(実際に花嫁の顔が狐の顔にメイクされていた)がなかなかシュールで、思わずフォークロアの世界に引き込まれてしまった。
さて、津川駅で予約しておいたタクシーに乗り、室谷集落のさらに奥まで入る。奥に入るにつれて悪路となり、タクシーの運転手には気の毒だったが、何とか入渓点の大久蔵沢出合の手前まで入ってもらった。
 8:45、出発。7月に行った佐貫さんの記録にある通り、大久蔵沢出合からは干からびた川床が続く。さっそくアブがたかってきたが、9月も下旬にさしかかるというのに、まだアブが多いことに驚く。
 9:15、駒倉沢出合着。やがてゴルジュとなり、腰上まで水に浸かったり、へつったりしながら進む。ゴルジュの出口には釜を持った5mの立派な滝が現れた。ここは前回来ている佐貫さんのリードに従って左から小さく巻く。部分的に悪い箇所があり、ワンポイントの荷上げや荷下げを交えて巻き終えた。しばらく進むとまたゴルジュ。今度は水が深く、完全な泳ぎとなった。ただし水勢は強くないので、へつりも交えて楽に突破できた。私は今回はウェットの類は持ってこなかったが、300m足らずと標高が極端に低いので寒さは全く感じなかった。なおこの辺りは柱状節理が発達しているのが目にとまった。
 10:45、駒形沢出合着。ここから先はしばらく穏やかな流れが続き、河原歩きが多くなる。所々側壁に広大なスラブが広がっているのが特徴的だ。やがて両岸が白いスラブに挟まれゴルジュっぽくなってくると、12:50、駒形山に南面からダイレクトにつめあがる沢(浪漫の記録では十字峡沢と命名されている)に左岸から出合う。ここから先は幅の狭い白いゴルジュがしばらく続き、再び泳ぐ箇所も出てきた。白い沢床とエメラルドグリーンの水との対比が何とも美しい。ここは初日のハイライトであった。佐貫さんは前回はこのあたりで引き返したという。
 13:40、西ノ沢出合着。西ノ沢は8mの滝となって本流に落ちているが、これは出だしの5m滝以降、久しぶりに見る滝である。本流はすぐ先に5m3条の滝をかけている。なかなか変化に富んだ所だ。その5m滝を越えると、その先は小さなゴルジュ。丸く侵食された岩盤が特徴的であった。
 14:00、名無沢出合着。浪漫の記録ではこの出合付近が絶好のBPと記されているが、下がゴロゴロしており泊まるには今イチ。まだ時間も早いので、もう少し進むことにする。右岸の897mのピークにつめあがる沢を見送ると、本流はまた狭いゴルジュがしばらく続いた。谷はV字状に狭まり、河原は全くない。この辺りから沢の水が濁り気味になってきたのが気になる(後で分かったことだが、上流の大規模な土砂崩れが濁りの原因だった)。ゴルジュを抜けると右岸に広大なスラブが広がり圧倒される。しばらく進むと等高線が緩んできたが、テン場適地はなかなか見つからない。時間も押してきたので少しあせるが、ようやく右岸に快適な河原を見つけたので、ここを幕場とした(15:50)。地図で確認すると500mの二俣の少し手前あたりと思われる。ここは対岸に広大なスラブが広がっており、なかなか雰囲気のいい場所だった。
 その夜は雨の心配もなく、焚火を囲んで快適な一夜を過ごしたが、蚊が多いのに悩まされた。


9月18日(日) 晴れのち曇り
 6:45、出発。すぐゴルジュとなり、釜を持った2m滝にぶつかる。これを越えるとゴルジュの出口にCSがあり、つっぱりで越える。
 6:50、500mの二俣。左俣に入るとすぐ6m滝。ここは下の淵を首まで浸かりながら越えた。この前後はきれいなゴルジュが続く。次の6m滝を右から快適に越えると、7:10、540mの二俣。左沢の奥に広がる広大なスラブの眺めが圧巻である。右沢に入るとすぐ8mのハング滝にぶつかる。これは登れないので、少し戻って左から巻く。高巻きは傾斜が立っており気が抜けない。上から見た次の5m滝も登れそうにないので一緒に巻くことにした。巻きの下りで2m程の懸垂をし、スパイクを履いて不安定な草付をトラバースし、最後は潅木につかまりながら8:20、沢床に戻った。意外と手強い高巻きだったが、佐貫さんのルートファインディングは絶妙だった。
 この先は傾斜が一段と強まってきた。相変わらず水が濁っているのが残念。次の8m滝も登れないので、左から巻く。ここも途中からスパイクを履き、巻きの下りの不安定なトラバースでお助けロープを使用した。ここでも佐貫さんの的確なルートファインディングに感心させられた。
 しばらくゴーロが続いた後、8m滝にぶつかる(9:50)。ここは水流の左をシャワーで直登。私が先にフリーで登り、後続は念のためロープで確保した。結局これが本流最後の滝らしい滝となった。
 なおも進むと突然土砂が大規模に崩れた跡に出くわした。遡行には支障ないが、まだ生々しい感じが残っていたので、最近崩れた跡らしい。昨日からの沢の水の濁りの原因はこれであった。崩壊の跡を慎重に越えると、その上は澄んだ水に戻ったのでほっとする。
 10:50、770mの二俣。右に入り15分足らずでまた840mの二俣。ここを左に入るともう沢は源頭の様相。沢型を最後まで忠実につめ、わずかのヤブ漕ぎで中ノ又山の東の肩の稜線に出た。そこからヤブの間を登ること約10分程で、12:00、中ノ又山(1069m)の山頂に立つ。完全なヤブ山だが、三角点の周囲はきれいに刈られており、鉄の標識も立っていた。残念ながら展望はなく、またこの先も長いので、早々に山頂を後にする。
 稜線づたいに東に下り、小鞍部を越えると展望が一気に開けた。矢筈岳を始めとする下田川内の山々が間近に見え、遠く南のかなたには守門岳も望まれた。しばし展望を楽しんだ後は下降の沢を確認し、12:20、下降開始。下降する沢は叶津川の支流の五枚沢である。下降してすぐ沢型が出てきて、やがて傾斜の緩いヌルヌルしたナメが続くようになる。やがて6m滝で懸垂。ここは残置シュリンゲがあった。なおも進み次の10m滝でまた懸垂。その先には傾斜の緩い20m程のスラブ滝が広がっていたが、ここは佐貫さんの判断で、水流の左側を全てクライムダウンで下りた。
 この先は傾斜の緩いナメ床が続く。途中の3m滝はお助けロープで懸垂。しばらく進むと岩盤が発達した幅広の美しいナメが広がり、いい感じになってきた。所々でイワナが泳いでいるのが見えた。淵に浸かったりしながら楽しく進んでいくと、やがて25m滝にぶつかる。ここは2本のロープを連結して、懸垂30mで下りた。次の10m滝を右からクライムダウンで下りると、まもなく赤崩沢との出合に着く(15:40)。ここから先は佐貫さんが前に来ているらしい。時間も押してきているので少しペースを上げる。
 赤崩沢に入ると傾斜が一段と緩み、沢というよりは川を下っているような感じであった。16:20、赤崩峠に登る沢との出合の広い台地に到着。ここはかつてゼンマイ小屋があった跡地らしい。快適な広場になっているので、今日はここで泊まることにした。  アブと蚊の襲来に悩まされたが、焚火を始めるとそれも苦にならなくなった。その夜は久しぶりに盛大な焚火を楽しんだ。興が乗った田村さんはそのまま朝まで焚火の側で寝ていた。
  
9月19日(月) 曇りのち晴れ
 今日は帰りのバスの時間があるので、早めに起きて5:35、出発。天気は曇りだが、大きく崩れる心配はなさそうだ。赤崩峠に向かう沢に入り、10分程で右から出合う支流に入る。そしてすぐ左から入る小沢をつめていく。赤い岩の小滝が出てきたが、そこには人工のステップが切ってあった。かつてゼンマイ小屋から赤崩峠を越えて只見へ下る道として使われた名残なのだろう。山と人との密接な関わりを感じさせられる。
 その小沢をつめると、6:45、赤崩峠に出た。特に標識はなかったが、わらじの赤布があった。このあたりは昔は道が通っていたらしく、かすかな踏み跡が残っている。峠からはしばらくその踏み跡を辿ってみた。やがて佐貫さんが大絶賛するブナの原生林が広がり、その中を下っていく。確かに見事なブナ林でしばし心が癒された。
やがて踏み跡が不明瞭になってきたので、沢に下りる。これは真奈川の上流の笠ノ沢で沢全体が赤っぽい。8:15、左岸から水上沢が合流して、後は真奈川の本流を下っていく。アブが一段とうるさくなり鬱陶しい。少し雨がぱらついたが、すぐ回復した。
 真奈川の左岸には山道が通っているはずだが、なかなか見つからず、そのまま川を下っていったが、ちょっとしたゴルジュにさしかかる手前で佐貫さんが思い切って左岸の急な斜面を登ってみたところ、その上は林道が通っていた。その林道に上がり、少しペースを上げて只見線の会津蒲生駅を目指して進む。林道が終わると舗装道路になり、そこからも結構歩いた。やはり電車の駅まで歩くとなると予想以上に時間がかかる。途中からタクシーを呼ぼうとしても携帯が繋がらない。そのまま只見線の線路を横断して、11:10、ようやく蒲生の集落に到着。国道沿いの民家にお願いして只見駅からタクシーを呼んでもらった。
 そのタクシーで只見駅まで行き、そこからバスで山口温泉に向かう予定だったが、タクシーの運転手がこのままバスと同等の料金で山口温泉まで行ってもいいよと言ってくれたので、そのご好意にすがりそのまま山口へ。これでゆったりと風呂に入る時間が稼げたのでありがたい。その山口の「きらら289」でゆっくり汗を流し、食事もすませて、会津田島行きのバスに乗り、そこから東武線で帰京した。

 振り返れば、三日間誰とも会うことなく、実に静かな沢旅を満喫できた。また今回は電車利用で、県境を越えて新潟から只見に下りるという旅の要素が強い山行でもあった。そのせいかとても充実した長い山行のように感じられた。また室谷川本流と只見側の沢とで沢の様相がめまぐるしく変わるのも楽しかった。
 念願の本流遡行を果たしたリーダーの佐貫さん、静かな沢旅に終始満足顔だった田村さん、充実した楽しい山行、どうもありがとうございました。

【行程】
9/17 大久蔵沢出合(8:45)〜駒倉沢出合(9:15)〜駒形沢出合(10:45)〜西ノ沢出合(13:40)
   〜名無沢出合(14:00)〜500mの二俣手前(15:50)
9/18 出発(6:45)〜500mの二俣(6:50)〜540mの二俣(7:10)〜770mの二俣(10:50)〜中ノ又山(12:00)
   〜五枚沢下降点(12:20)〜赤崩沢出合(15:40)〜赤崩峠に登る沢との出合(16:20)
9/19 出発(5:35)〜赤崩峠(6:45)〜水上沢出合(8:15)〜蒲生の集落(11:10)
【地図】駒形山、光明山、只見

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