TOP2006年記録

キノコの山

越後/金城山北尾根 (雪稜)

佐貫

【日時】2006年2月25日(土)〜26日(日)
【メンバー】棚橋(L)、佐貫

 取付間違い、雪崩などのちょっとしまらない理由で2回敗退している金城山北尾根。今年こそ厳冬期に、のはずが2月も末の計画になってしまった。早出のはずなのにタクシーの予約を忘れており、いつものマルカタクシーも営業開始前とあって車がない。するとその騒ぎに気付いた近所のおじさんが親切にも取付まで送って下さるという…やっぱり塩沢って素晴らしいところだ。地獄に仏とはまさにこのこと。軽自動車で中川新田の最終人家まで乗せていっていただき、くっきりと浮かび上がる北尾根を見上げると・・・、何だか黒っぽい!大雪が締まった後の快適な雪稜となるはずが、妙な不安を感じる。

日陰の雪はかなり堅くしまっている
 雪は堅く、取付まではワカンも履かずにスタスタと30分強で到着。少しもぐりそうな感じだったのでワカンをつけて登り始めると、思ったよりも雪面が堅いのに気付く。適当な所まで上がってアイゼンを併用する。さらに少し登ると斜面が割れたり、雪が滑り落ちた跡がトイ状になっている箇所が目立つようになった。後ろにいた棚橋さんはまだワカンだったのでアイゼンに代えた方が良いと伝え、アックスのシャフトはささらないのでピックを打ち込んで無理矢理登る。

 標高差にして200m強も登ると、雪面には縦横に割れ目が出ているのが一層目立つようになり、デブリの跡もそこら中に広がっていた。雪質はというと表面だけは堅くなっているものの、その下はスムージー以上シャーベット未満の軟らかさのベシャっとしたザラメの層がたまった底なし沼状態で、先が思いやられる。

 標高800m付近で斜面が急に立ち上がってくるのだが、水平に入った亀裂を超えるために今回初めてザイルを使用する。前に来た時に岩峰の横の急なルンゼ状の地形を登ったような記憶があるのだがここだろうか?棚橋リードで取り付き、ピッチを切ったすぐ上は急にせりあがる「マッターホルン状(by今野さん)」の雪壁の基部だった。2年前に大野さん、今野さんと来たときはこの上まで登って引き返したのだが、その時とは大違いで側壁がかなり黒い。雪が落ちてしまっているのだ。そのときはワカンで登れたのだが、今回の雪の状態は数倍悪い。ザイルを引いてそのまま佐貫が取り付くが、グシャグシャの雪にてこずりかなり時間を食ってしまう。1Pでは足りずバトンタッチ。
こんなところで順番が回ってくるなんて
 上がりきってザイルをたたむ間に先行してみると、古〜い捨て縄がかかった立ち木があり、ここが記録で見た懸垂箇所であることが分かる。
一部、空中となる50mシングルで目一杯の懸垂から登り返しとなる。途中、日が当たらないために雪が堅くなったガリー状の雪壁で一度ロープを出す。アイゼンの爪先とバイルのピックだけがかろうじて刺さる堅い雪面だった。

 そろそろ日没時間が気になるが、今度は大きな岩塊(「岩峰」というほどとがっていない)に阻まれてしまった。ここは右手から回り込んで稜線に出るべく棚橋さんがザイルを引くが、上がった先がキノコ雪とのことで途中の木にザックを残置し、空身でキノコ雪の側面のふくらみを崩しながら抜けていったようだ。続いてザックデポ地点まで上がって荷揚げし、リード交代してみるとビレー点のすぐ先もまたもや片持ちのキノコ雪、手前には空洞。それを超えるとダーッと切れ落ちた右手と、パックリと割れ目が出来ている左手との間の綱渡り。順番運の悪さを呪う。山頂がいやに遠くに見える。3P目は棚橋リードで頂稜のギャップを避け、グズグズのトラバース。交代してまたキノコ雪、5P目もキノコ雪。ここでやっとテントが一張りできるだけのスペースにたどり着き、時間も18時となってしまったので行動終了となる。リーゼントの先端が垂れ下がってしまったような半壊の雪庇と、「シチューのパイ包み」のようなキノコ雪と格闘した一日であった。ラッセルがないのにこんなに時間がかかるとはちょっと情けないが、結局これが実力ということなのであろう。

 日曜の朝。予報は芳しくなく、山頂方面ではゴウゴウと風が鳴っている.。幕場から30分も歩かないうちに尾根が広くなり、間もなく水無道との合流点に達した。先週のわらじの仲間Pのトレースがうっすらと残っている。アイゼンへの雪の付着がひどいが、それを叩いている間にも強風にあおられる始末。懐かしい山頂からの屏風のような岩峰の連なりをゆっくりと眺める暇もなく、そそくさと下山の長崎尾根を目指した。幸い視界は良好、地形図を確認しながら長崎尾根への分岐に到着してみると猛烈な強風である。最初だけは樹林帯ではなく、吹きっさらしの中を降りなくてはならないのだが、時折吹き上げる風に身体がフワッと持っていかれそうになる。こんなに里から近い場所でこんな迫力の烈風が吹くという、自然の恐ろしさ。とはいえ風が生温いので切迫感は無い。じりじりと標高を下げ、北側にブナ林の広がる岩壁マークの辺りまで来てみると、直径30cmもありそうなブナの木が強風に翻弄されて小枝のように揺れていた。
この足跡は一体?
余りにも風が強く、また稜線上の雪もところどころで落ちていて通過に手間取りそうなので、途中から北側の支尾根を使って降りることに決め、最後は植林帯を抜けて歩いていると民家の玄関先に出た。

 藪雪稜のベストシーズンも終わりかなと感じた週末であった。振り返ってみれば今年も「六日町」「八海山」の山域で、いつも同じようなメンバーで試行錯誤を繰り返しながら亀のように遅い歩みを続けているだけの厳冬期だった。キノコにたかる小さな虫のようにじりじりとルートを延ばしながら核心部を抜ける面白さや、心温かい地元の人との会話の楽しさ、行くはずのルートを宿題として持ち越してしまったことなど、この地を訪れる度にまた来る理由を見つけてしまう。来年の厳冬期が終わってもなお、同じようなことを言っているような気がしてならない。願わくば、もう少し進歩したいものではあるが…。

【行程】
2/25 中川新田集落最終人家(6:30)- 取付(7:05)-標高800m付近核心部入口(10:30)
   -1150m付近幕場(18:05)
2/26 出発(6:05)-金城山山頂付近(7:25)- 長崎尾根分岐(8:25)-下之本-越後上田郵便局(12:30)
【地図】六日町