【日程】2009/4/8〜4/19
【メンバー】斎藤健太郎(記)、他
【ガイド】シャモニガイド組合の山岳ガイド2名
【参加者】フランス人3、スイス人2、アメリカ人4、日本人1
★はじめに
モンブランの麓の町シャモニを出発し、アルプスのいくつもの山や氷河を越え、マッターホルンの麓の町ツェルマットまでいたるオートルート。
オートルートは、世界で最も有名な山岳スキールートで、毎年、春になると、世界中の山岳スキーヤーがオートルートを目指してシャモニの町に集まってくる。
また、ヨーロッパ最強のガイド集団と謳われるシャモニガイド組合は、フランス山岳文化の一部と言ってもよいだろう。そんな彼らと行動を共にしてみたいとの思いを長年抱いていた。
今回、シャモニガイド組合のオートルートツアーに直接参加し、インターナショナルグループでのオートルート走破を試みてみた。
【目指すはマッターホルン 超望遠撮影】
【とにかく広い】
【どこまでも続く】
【地平線をゆく人達】
【夕焼け】
【天空の城 ベルトル小屋】
【スイスの田舎料理 ロスティー】
山小屋での食事も楽しみの一つ。
野菜スープ、ライスかパスタ、肉料理、デザートのパターンが多かった。
誕生日のひとがいると、小屋がバースデーケーキを用意してくれる。
全員で、バースデーソングを歌い祝福する。
自分たちのパーティーのソフィーが3日目に誕生日だった。
【ビリヤード、トランプ、ボードゲームで遊ぶ】
【持ち歩いた食料】
パン、チーズ、ハム、サラミ、パンケーキ、サラダ、リンゴ、…。
昼食も共同装備として担ぎ上げ、毎日、楽しいピクニックランチを楽しみました。
【岩場は確保してくれる】
【ピッケル、アイゼンも活躍】
【ビンディングはTLT、板はトラーブが人気】
【後続待ちは昼寝タイム】
【最高地点 テッテ・ブランシュ 37XXm】
【マッターホルンがどんどん近づいてくる】
【最後はツェルマットのスキー場でゴール】
【メルシー パスカル&ダニエル】
★オートルート全日程
・4/08(水) 晴れ
成田→チューリッヒ→ジュネーブ→シャモニ
・4/09(木) 晴れ
ミディで高度順応。
ショッピング。安くてつい買いすぎてしまう^^;
・4/10(金) 晴れ
日帰りのスキーツアー(アルゼンチエール氷河)
オートルートのトレーニングをしたいと言ったら、ガイドさんが一人
ついてくれペース配分などを教えてくれた。思ったよりゆっくりだった
ので安心した。
夜、知り合いの知り合いということで、神田さんの家の
フォンデュ・パーティーに招待される。
ICIスポーツの平出和也君らのパーティーが、丁度オートルートから帰ってきたところで
最新の状況を聞くことができた。
・4/11(土) 曇り
ミディで高度順応。
階段を上り下りしていたら、「どこに行きたいの?」
と聞かれてしまった。
バスに乗っていたらクライミング友達の松原尚之さんに会った。
ENSAの施設を借りた研修らしい。
夕方、ガイド協会に集合し、ガイドによる装備チェック。
何か起きた時の装備を持っていく前に、何かを起こさないように
することを考えなさいとのアドバイス。
・4/12(日):Day1 晴れ
Aig. des Gds Montes(3295m)→2580m→C. du Tour Noir(3534m)→Ref. de Lognan(2032m)
歩行やターン、滑降など、一日中、いろいろな基礎技術の確認と
トレーニングだった。自分の悪い癖もあちこち修正してもらった。
長いツアーでは、ちょっとした力のセーブの積み重ねが重要なようだ。
・4/13(月):Day2 晴れ
Ref. de Lognan(2032m)→Col du Passon(3028m)→Col du Tour(3281m)→Col des Ecandies(2793m)→Val d’ Arpette→Champex(1498m)
スイス人が遅れ気味。コルで昼寝して待つ。
アメリカ人が転んで肩を負傷。彼は、ここでリタイヤ。
広々とした氷河の滑降が気持ちよい。
・4/14(火):Day3 晴れ
Champex→Le Chable→Verbier スキーリフトM.Gele(3023m)→Col des Gentianes(2980m)→Col de la Chaux(2940m)→Col de Louoie(2921m)→Col de Momin(3141m)→Rosablanche(3336m)→Cab. de Prafleuri(2624m)
毎日楽しい、雪上ランチ。今後も続けようということになり、
シェーブルの町で食材を買い込む。
Rosablancheの頂上からは、今後のルートが一望でき、
はるか彼方に目を凝らす。
・4/15(水):Day4 晴れ、夕方から雪
午前:Cab. de Prafleuri→Lac des Dix→Cab des Dix CAS(2928m)
午後:La Luette(3548m)往復
長い長い湖岸トラバース。左右のクライミングサポートの高さを
変えたりして、少しでも足の負担を減らそうと試みる。
午後、フランス人達と自分とで、近くにある山に登りに行った。
手付かずの新雪斜面が無制限にあり、滑りを楽しむ。
風が強くなり、次第に雪混じりに。
夕食の頃には、視界がほとんど無くなり、夜半、吹雪がビュービュー
と唸っていた。
・4/16(木):Day5 雪、夕方から晴れ
Cab des Dix CAS→Pas de Cheores(2855m)→Arolla(2006m)→Col de Bertol(3268m)→Cab. de Bertol CAS(3311m)
「今日は停滞か?」と思うような視界と風の中、出発。
オーバーハングした壁をビレイしてもらいながら突破したりして、
一旦、アローラに脱出。
喫茶店で一息入れた後、本日の行き先も変更して、再出発。
そして、たどり着いたのは、岩峰の先端に立っているベルトル小屋。
ラピュタに泊まれたので、これはこれでOKかな。
それにしても、何も見えない中の的確なルート取り。
やはりガイドは凄いと感じた。
・4/17(金):Day6 晴れ
Cab. de Bertol CAS →Glacier du Mont Mine →Tete Blanche(3707m) →Stockjigletscher →Tiefmattengletscher →Zmuttgletscher →Zermatt(1605m)
昨日までの吹雪で、世の中全てがふかふかの新雪。
果てしなく広い雪原を、一歩一歩、思いを込めながら踏みしめる。
さすがに、9日目ともなればどんなに標高が高くても
全く息切れしない。
ルート上の最高到達地点(3707m)を踏めば、あとは、
どこまでも続くパウダーラン♪
右に左に、軽やかなリズムを刻む。
突如、標高3000m付近で、轟音、雪煙、爆風と共に雪崩が
向かってきた。
自分は、直滑降でなんとか逃げ切る。
人数を数えると3人少ないぞ。
不安な気持ちを抱えながら、雪煙がおさまるのを待つと、
上から滑ってきた。雪崩がおさまるのを待っていたようだ。
全員無事でなにより。
マッターホルンがどんどん大きくなり、基部にタッチ。
滑り続けると、ついにツェルマットのスキー場にたどりつき、
永遠とも思われたこのスキーツアーもフィナーレを迎えた。
・4/18(土)
シャモニ→ジュネーブ→チューリッヒ→
ジュネーブでクライミング友達の松浦さんにばったり会った。
仕事で来ているとか。お疲れ。
・4/19(日)
→成田
★おわりに
オートルートはやっぱり素晴らしかった。
広々としたコース。遥か彼方まで続くアルプスの山並み。
山小屋では、暖炉を囲み、ロスティーなどの地元料理を食べ、様々な国の人々と語り合う。
即席のチームながら、困ったときにはお互いに助け合い、なんとか皆でゴールにたどり着けるように頑張った。
そして、アルプスの山々を知り尽くした、屈強なシャモニガイド。強いだけではなく、ときには華麗な滑りを披露し、また、ときにはチームの皆を盛り上げる。特筆すべきは、チームのメンバーがいかに安全に行動できるようにするかへの多大なる気配りだろう。
こんな体験をできたのも、日ごろ、一緒に山スキーに行ってくれるトマの風の仲間達がいるからこそ。そんな仲間達にも感謝。
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■参加者の横顔
・元ツールドフランスのプロ選手(仏・60代・男):
登りにめっぽう強い。
うんちく好き。他の参加者は、”もういいよ”という顔をしていたが、
私は、フランス語が分からず、聞かなくてよいので助かりました。
・シャンペの町で自転車を衝動買いしちゃったチャリ好き(仏・40代・女):
またまた強い。
日本で言うところの関西人のおばちゃん。
夜のゲームは百戦錬磨。
・夏にはアルパインもやっちゃうハンサムボーイ(仏・30代・男):
山慣れしてます。
山小屋に置いてある、山の本をよく読んでいます。
ジョークが好きです。
英語で話しかけてきてくれます。
高校生のとき、日本語を習っていたそうです。
・テレマークで参加のスキーインストラクター(米・30代・男):
彼のテレは一見の価値あり。
滑っている姿の、ビデオ撮影が好きです。
・REIの顧問弁護士(米・50代・男):
コロラドと昔からの山仲間。
張り流しのスキンが斜面で突如はがれ、肩を痛める。
唯一のリタイヤ者。
・コロラド在住でオフピステを滑り込んでます(米・50代・男):
REIと昔からの山仲間。
コロラドの話が好きで、”イン・コロラド、〜”を何回聞いたことか。
・NYの弁護士で只今失業中(米・30代・男):
ヒゲもじゃの顔。吹雪の日の風貌は、まさに雪男。
・金融アナリスト、フィル(スイス・30代・男):
地元ならではの解説してくれます。
標高が高くなると、とたんに前に進まなくなる。
ソフィーの夫。
・某有名バンクの行員、ソフィー(スイス・30代・女):
言葉の分からない私をなにかと気遣ってくれました。
一番、体力的に弱い。
フィルの妻。
■ツアー中の様子
先頭と最後尾をガイドがはさみ、メンバーはその間に入ります。
ガイドは、安全で、しかも、通過が容易なようにルートどりしていきます。
日本では、危なっかしかった僕も、6日間を通して転ぶような場面はありませんでした。
滑るときは、2通り。
クレバス帯は、ガイドの後について滑るように指示されます。
新雪斜面の場合は、どこでもOKな場合と、ガイドが斜面ギリギリ部分を滑って、ここから右側とか左側とか範囲指定があって自由な場合があります。
滑落の恐れがある場合、ロープをカラビナにつけ、前の人とロープがたるまないようにして歩きます。
雪崩が起きそうな場所では、30m間隔で歩きます。
斜面を横切る場合など、30m間隔の指示がよくでました。
最終日は、出発からゴールまで、この雪崩注意隊形が解除されませんでした。
ガイドは、天気の読みが正確で、”この風の流れだと、午後から雪がちらつく”とか、”今晩の積雪は30cmで、明朝も雪は降り止まない”とか、”山のこちら側は雪だけど、向こう側は雨”とか、大概、言ったとおりになります。
■参加者の装備
ビーコン、ゾンデ、スコップ、アイゼン、ハーネス、安全環付カラビナ1枚、インナーシーツ、ヘッドライトetc。
アイゼンは2日目の早朝、コルへの登りで使用。
アイゼン等、3日目以降利用しないものは、シャンペで、ツェルマットに送ることができる。
張り流しのスキンを使っていた人は、途中でつかなくなり、本当に苦労していました。中には、スキンが遠因でリタイヤに追い込まれた人も。スキンは、前と後ろでしっかりと止まるタイプが必要。
テレマークで参加の人も、時と場合によってヒールを固定して滑っていた。
午前中は、クトーが必要となる斜面が多い。このルート、クトーは必須。
■ガイドの装備
スタティックロープ7mm×30m
ダイナミックロープ8mm×30m
アイススクリュー、プーリー、ピッケル、GPS、etc.
クレバスからのレスキュー装備、参加者の安全を守る装備を持っています。
毎年のようにオートルートに来ていて、ルートは良く分かっているのに、GPSも持っていた。
■言葉
今回、仏語圏の人と英語圏の人の割合は、7:3。
ガイドの話す言葉の9割はフランス語でした。フランス語、最初は、よく分かりませんでしたが、朝から晩まで、ず〜と聞いていたら、なんだか少し分かってきたような。フランス語だからといって、何か困るようなことは起きませんでした。
参加者とは、大概、くだらない話をしています。
日本のスキー事情とか、REIがまた東京にお店を出す話とか、趣味の自転車の話とか、フランスの登山の歴史とか、100年前に初めてオートルートを走破したときの本当のコースについてとかは、ある程度まともなほう。
今日転んだ人のリプレイとか、あのテーブルはうるさいから○○人だとか、なんでアメリカ人はスープにパンを入れるのかとか、重さゆえに残置してあった共同装備のりんごを見つけた話だとか、インナーブーツをいかにして小屋の中のベストポジションで干すかとか、自分の持っていった帽子の形が変だとか、誕生日の女の子を驚かせようとか、トランプのときになぜか8のカードが6枚もあったりとか、ビリヤードのキューが壁につっかえるとか、ほとんど、この手の些細な会話が朝から夜まで続きます。
”MONAKA”とか”KARIKARI”とか、日本語を教えたりするのも、面白い遊びです。
■ツアーに不要な荷物
ツアーに不要な荷物は、ガイド組合の建物4階、屋根裏部屋にデポさせてもらいました。
■ツアー終了後のシャモニまでの足
シャモニガイド組合が貸切バスを手配してくれ、希望者はシャモニに戻れます。
ツェルマット→シャモニ:€55
ツェルマットに残ることもできますし、シャモニまでの道すがらの町での降車も可能です。
■ルート変更
天候やメンバーの状況に問題がある場合、ルートが変更されます。
変更になった場合、新しい宿や交通手段の手配は、ガイドがガイド組合経由でやってくれます。
悪天によりオートルートが全く駄目な場合も、イタリア側のコースや、モンテローザ方面など、代替プランをいくつか持っているようでした。
■時期
今年は、スイス各地の観測所で過去最高の積雪を記録するなど、雪の多さでは恵まれていました。
斜面が急なため、スキーを脱ぐことがあっても、雪が無いためにスキーを担ぐことはありませんでした。
天候、気温、積雪も含めてトータルで、4月1〜20日あたりを真のベストシーズンとしてお奨めします。
■参加するのに必要なこと
難しい場面は、ガイドが対応する。
結局のところ、参加者に必要なものは”体力”。
この1点です。
まあ、旅行の延長なのかな。
■別の楽しみ方
ガイドレスで行く場合、天候の見極め、クレバスからのセルフレスキュー、ヒドゥン・クレバスの見つけ方、ルートファインディング、エスケープルート、メンバーのトラブルへの対応、メンバーの安全確保、...。今回、自分があまり深く追えなかった、あれやこれやをやれて、それはそれで楽しいかと思います。
さらには、大きく周遊するルートをとる人、テント泊のパーティー、単独の人、スキーではなくてスノーボードの人も。
山は自由です。各自、我が道を行ってください。
では。