安倍奥三部作:コンヤ沢、黒ん沢、関の沢芝白沢

 

貴重な3連休に日本列島を縦断するという暴挙にでた憎々しい台風のせいで山行が中止になってしまった。

不本意極まりないが、めずらしく家にいる時間ができたので、この時間を有効活用するために山行記録を書くことにする。

山行速報を憂さ晴らしに使うつもりはないが、記憶のなかだけでも山に行かないと気持ちがスッキリしないのは山ヤ・沢ヤに共通する病だろう。

今回書くのは、最近、自分が好んで通っている安倍奥の沢の記録だ。


 

さて、自分が「安倍奥」の沢を知ったのは2年前の6月のこと。

当初行こうとしていた東北方面が雨予報に変わり、悩んでいるあいだに関東にも雨マークが付いてしまった。天気予報、天気図、衛星画像を睨み続けて、最後に目が止まったのが雲の切れ間から見えた静岡県東部だった。ただ、当時はその地域についての知識が皆無だったので、情報を得るためにネットで「静岡 山岳会 沢」と検索をすると、読み通り地元の沢の記録が出てきた。

初めて知る「安倍奥」の地名。薄暗いゴルジュのなかを水量豊富に流れる沢の写真を見た途端に一目惚れしてしまった。会では訪れる人の少ない山域ということもあり、自分だけのmy山域、my沢を手に入れた気持ちになり無性に嬉しくなった。

そして、初めて訪れた安倍奥の沢が「コンヤ沢」だった。

記録は山行速報として載せたので、そちらを読んでいただきたい。

南アルプス 安倍川コンヤ沢

予想していた期待を遥かに越える楽しい沢だった。会に入ってから思い出の沢を教えて下さいと聞かれたら、コンヤ沢が真っ先に出てくる。

いま思い出してもニヤニヤが止まらない。

 

そんな安倍奥の魅力にどっぷり浸かってしまったので、それから暫くは安倍奥の沢の記録を調べる日々が続いた。

ネットでさらに情報を集め、何本か興味のある沢をピックアップしてきた。そして、安倍奥に再訪できる喜びを胸に秘めて計画したのが、今年7月に行った「黒ん沢」だ。


 

●安倍奥:黒ん沢

7月9日(日):Y澤、M本、F永、K至、N口

黒沢林道の起点に車を停めて、終点から踏み跡を辿って沢へ降りる。

先頭を歩いていると、突如後ろからN口さんの悲鳴が聞こえてきた。

「うわぁ、地面が動いてる!」

なんのこと分からず、地面に顔を近づけて見てみると、うえ、本当に地面が動いている。

見れば見るほど、あっちでこっちで、獲物を求めるエイリアンかゾンビのように、吸血生物が蠢いている。

気持ち悪いので足早に斜面を駆け下りて日の当たる場所で足元を調べると、いるいる、靴にスパッツに、ヒルが無数についている。

皆んなキャーキャー悲鳴を上げながら集合し、急いでヒルチェックを行う。

初っ端から気持ちが急降下したが、あらかたヒルがいなくなったところで気を取り直して遡行を開始した。

安倍奥の沢は民家が近くにある里山を流れる、コンパクトで短い日帰り可能な沢が多い。取水面積はとても狭いのに想像以上に水量があるから不思議だ。前回行ったコンヤ沢は特にそうだが、場所によっては泳がないと突破できないゴルジュがあり、大きな滝も現れる。どこからこんなに多くの水が流入してくるのだろう・・・。

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ご多分に漏れず、黒ん沢も泳いだりへつったりしながら進むと、15m近くある滝が出てきた。

20170709安倍奥 黒ん沢_14_DSCN3299

これは右岸を高巻くが、落ち口からさらに先にも同じくらいの落差がある登れない滝が続いているので、一気に巻いて懸垂1ピッチで沢床へ復帰した。

こういう大きな滝があるのも安倍奥の魅力だ。

その後に現れる登れない滝は左岸から高巻き、懸垂で沢に戻る。それから暫く進むと記録に有名な「七ッ釜」の滝に到着した。見事な自然美に一同感嘆の声が漏れる。黒ん沢のハイライトだ。

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20170709安倍奥 黒ん沢_56_DSCN3341

奇跡の造形美に見とれながら高巻きで七ッ釜を越え、数本滝を登ると仕事道に出会う。これ以上は進む価値がないので、遡行を終了とした。


 

コンヤ沢とは違いゴルジュ突破の沢ではなく、滝を愛でる渓相だった「黒ん沢」。

「七ッ釜」は一見の価値がある素晴らしい場所だ。

 

これで安倍奥の沢を2本遡行した。そして、先日行ったのが黒ん沢を計画する時にこっちも面白そうだと目星をつけていた「関の沢芝白沢」だ。


 

●関の沢芝白沢

9月10日(日):Y澤、K至、K林、E本、S藤、T橋

南アルプスはトマの鬼門と言われ続け、人が寄り付かない、近くても遠く感じる疎遠の地だったのに、いつから募集メールを流すと人が集まるメジャー地域になったのか・・・。予想外の6人パーティーで「関の沢芝白沢」を遡行してきた。

今回は車が2台あるので、下山予定地の中の段に1台をデポすることにした。

入渓地点手前で準備をしながら、ヒルがいないか周りを見渡す。視界の範囲に吸血生物は見当たらず一安心して入渓する。

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ネットの記録で見た写真よりも穏やかな流れを進むと、記録にあった細長いゴルジュが出迎えてくれた。水量が多い時は高巻くしかならしいが、今回は腰上の渡渉で平和的にゴルジュを通過することができた。奥にそびえる滝は登れるか取り付いてみたけど、ツルツルの落ち口に文字通り手も足もでなったので、引き返して左岸を高巻きして30m懸垂で沢に戻った。

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ここが関の沢のハイライトで、暫く進むと右手から直角に「芝白沢」が流入してくる。

芝白沢は、絶望的に難しい核心も、息をのむほどの絶景もないが、稜線まで小滝をひたすら登り続ける体力勝負な沢だった。

そして、コンヤ沢と黒ん沢ともまた違う渓相で、一言で表すと、全てが脆い。山肌も、登っている滝も、足場も、全てが脆いのだ。誰かがバランスゲームをした後なのか、大きな岩の上に不自然なバランスで乗っている巨岩が点在しているので、それに触れないように神経を使いながら進んで行った。

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斜面の崩壊は現在進行形で、石がパラパラ落ちてくる。

そんな芝白沢を延々と登り、最後は笹薮を抜けると登山道に到着して遡行は終了となった。

十枚山までは一息だ。今回はガスに覆われてしまい景色は見えなかったが、晴れた日は眺めが良さそうな気持ちのいい山頂で記念撮影をしてから休憩する。一息ついてから車を置いた中の段を目指して登山道を下った。

登山道はよく整備されていて非常に歩きやすく、山頂から約1時間で登山道入口まで下ることができた。

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これで安倍奥の沢に3本入った。どれも違う渓相なのが不思議で、そこがとても魅力的で、興味が尽きないから面白い。また安倍奥に来よう。記録のない沢もあるし。あと数年は楽しめる山域を見つけられて良かった。温泉と満足に浸かりながら、次に入る沢のことを考えてまた一人でニヤニヤするのでしたw